深夜の火災騒ぎ

 ハワイ滞在も中間を過ぎ、昼間のビーチの疲れも手伝ってぐっすり眠っていた深夜1時頃、なにやら遠くの方で消防車の音が。バニヤンでは夜昼となく消防車やパトカーのサイレンが良く聞こえます。特に我が家の場合は、夜は窓を開け放して自然の風の元で眠ることが多いので、結構町の騒音が聞こえてきます。夜早いときはクヒオ通りを行き交う人々の話し声、朝は清掃車や鳥の声といったところです。

 初めは、また今日も消防車の音が聞こえているなあ、どこだろう、なんてことを半分眠りながら、夢見ごこちで考えていました。ところがサイレンは一向にやまず、しかも徐々に近づいてくる気配。なんとなく不安な気配を察して、パジャマ姿のまま、ラナイへ出て火元を確認することにしました。

 今回私が宿泊したのはタワーTで、左が海、右が山、正面はワイキキ市街です。バニヤンに宿泊したことがある人なら分かると思いますが、この向きだと、ちょうど足元がバニヤン入り口になります。で、ラナイに出て周囲を見回すと、なんと消防車がバニヤンの真ん前に停車。まさに消火活動を始めようとしています。

 「おいおい、そりゃないぜ」みたいな気持ちが沸き起こるとともに、煙を探そうと周囲を改めて見回しました。しかし火の手も見えず、煙の兆候もありません。

 とはいうものの、消火活動を行おうとしているのを見ると、やはり焦ります。気の早い宿泊客が、数十人消防車の周りに集まっている様子も見えます。この時点で、これは訓練ではないなと判断し、消防車のサイレンの音にもめげずにぐっすり寝ている女房、子供を起こすことにしました。

 女房はさすがにすぐに起きましたが、子供は容易に起きません。そこで女房と二人でラナイに出て、改めて状況を確認。先ほどとそれほ変わらない状況なので、万が一のことを考えて、貴重品(現金やパスポート、航空券)をいつでも持って出られるように準備し、ラナイに出て推移を見守ることにしました。

 この頃になると、暗闇の中であちこちのラナイから覗いている人の頭が多数見え、なんとなく緊迫感も高まってきました。試しに部屋の外の廊下に出てみると、やはり不安そうな顔をした宿泊客が、あちらこちらで顔を出しています。

 ついでにエレベーターの前まで行ってみましたが、この時点ではまだ動いていました。さらに廊下の奥のほうに行き、突き当たりに設置されている非常階段の場所を確認して、再び部屋に戻りました。

 と同時に、まぎれもない火災警報が各部屋で鳴りはじめました。ヴィー、ヴィーという断続的な音です。すぐに止まるのかと思っていたのですが、まったく止まりません。ひたすら鳴り続けています。これはもう何が何でも一旦は避難するしかないと判断し、息子をかなり強制的に起こし、先ほどの貴重品を詰めた袋を持ち、廊下に出ました。

 あちこちでドアを開け閉めする音が聞こえてきましたので、かなりの宿泊客が避難を決意したのだと思われました。エレベーター前まで行き、ボタンを押しましたが、非常時にはエレベーターは使えないという警告どおり、まったく動いていませんでした。

 そこで非常口まで行き、階段を下りて避難することを決断。階段まで行くと、すでに上の階から多数の宿泊客が降りてきていて、かなりの混雑。これを見て、また気持ちが焦りました。宿泊した階が17階だったので、それほど疲れはしませんでしたが、延々と続く階段にはやはり閉口しました。高齢者には辛い避難となったはずです。

 ようやくの思いで1階に達し、バニヤンのロータリーに出てみると、すでに多数の避難客が集まっていて、深夜の大集会状態です。その中心に消防車がありますが、最初に見た慌しさはすでになく、避難してしまった強みで今度は野次馬根性みたいな感じです。消防車の前で記念写真を撮っている旅行客もいました。

 しかし周囲の人々を見ると、明らかにパジャマ姿だったり、裸足だったり、ペットを抱えていたりと、けっこうみんな慌てて避難したんだなという雰囲気でした。我々は歩道の縁石に腰掛け、成り行きを見守ることにしましたが、実は動きはほとんどなく、説明を英語で聞くわけにも行かず手持ちぶさたの状態でした。

 火災警報は相変わらず鳴り続け、避難する宿泊客は増える一方ですが、肝心の火災そのものの雰囲気はなく、また警報に対する説明も行われません。ただ空気中にわずかにきな臭い臭いは感じられました。それだけが、我々が感じた唯一の火災の兆候でした。

 結局そのまま30分ほど経過した頃、警報が鳴り止み、なんとなく終わりという状況になりました。訳がわからないまま、多数の宿泊客の流れに従ってエレベーターに向かうと、館内放送が聞こえました。英語と日本語の両方で説明しているようでしたが、周囲のざわめきでほとんど聞き取れず、原因は分からずじまい。

 ギューギューのエレベーターでようやく部屋に戻り、改めてベッドへ。エレベーター待ちで多数の宿泊客が並んでいましたが、殺気立った雰囲気はなく、まあしょうがないから戻ろうか、という感じだったのが幸いでした。

 翌日は睡眠不足だったのは言うまでもありませんが、万が一のことを考えて、貴重品は一箇所に集めておく必要性を認識させられました。



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